主の居ない一軒家で一匹暮らししていたのを引き取ってきたそいつは
どうしても嫌がって玄関で帰せと泣き喚いていた。
とにかく、人が嫌いだったらしい。
朝ごはん食べていると人のシャケを横取りしようとするし
かと言って猫缶買ってくれば見向きもしない。
そのくせ晩御飯の刺し身はやっぱり横取りしようとする。
寝るかと思って部屋の戸を開けると我が物顔で人の布団の上で居座っていて
ならばと布団を買ってきてやっても、今度は人の座椅子に陣取る。
しかし抱かれるのはとにかく嫌いだった。
散歩に出ようとすると、開いている窓を尻目に前の窓を開けろと人をこき使う。
帰ってくれば、真新しい網戸を引っ掻いて入れろと叫ぶ。
寒い日は、窓を開けるやいなや踵を返した。
水飲み場は亀の水槽がお気に入りで、次点は風呂場の桶。
ボウルに入れて用意した水は、飲まない。
野良猫と出くわせば、後ろ足に傷を負って逃げ帰り、子猫にすら怖気づく。
病院に連れて行こうと車に載せたら失禁する始末だった。
そんな臆病で、実に気まぐれな奴だったが
喉を掻いてやると気持ちよさそうにするのだけは昔から変わらなかった。
買ってきたばかりの餌は、ほとんど手を付けないまま、残っている。